クラシック音楽を聴いて眠くなるのはなぜかという命題について
数年前、突然クラシック音楽に目覚め、某交響楽団の定期会員になり、ほぼ月1回演奏会に足を運んでいます。クラシック音楽、オーケストラ演奏の魅力とは何か、自分でもうまく説明できないのですが…。すごーくベタに、そしてキザに言わせてもらえば、それは星の輝きに似ている、ということでしょうか。長いときを経ても色褪せない輝きがクラシック音楽にはあると思うのです。遠い遠い、気の遠くなるほど遥か遠くの宇宙のどこかで煌めいた星の光が、私たち見る者の心に何かを与えるように、何千キロも離れた場所で、何百年も前に書かれた音楽が聴く者の心を震わせるのですから。
さて、そのような魅力溢れるクラシック音楽の演奏会ですが、唯一欠点があるとすれば、それは「眠ってしまう」ということなのです!美しい音楽、素晴らしい演奏に酔い痴れるうちに、なぜか睡魔が襲ってくるのです。演奏会に行き始めたころは「眠ってしまうなんて恥ずかしい」と思っていたのですが、ふと周りを見れば、居眠りしている人はそこここにいるのです。それに気づいてからは「人はクラシックの演奏会では眠るもの。眠ることを恐れて演奏会に行かないのは間違い」と考えるようになりました。
ところで、私はなるべく多くの演奏会を聴きに行きたいので、チケット代の安い席、つまりステージからは遠い席を選ぶようにしています。某酒造会社の名前のついた有名なコンサートホールの一番安い席は、ステージの後ろの席なのですが、さすがに音が聞こえにくいので、この席で演奏を聴いたのは1回だけです。その演奏会では、アメリカの作曲家で詩人・思想家のジョン・ケージの作品が演奏されました。二十世紀を代表する前衛芸術家の作品だけあって、いわゆる現代音楽で、演奏者たちはよく見る黒いスーツ姿ではなく、Tシャツに綿のパンツなどの普段着姿だし、龍安寺の石庭からインスピレーションを得て書かれた曲だとかで、それぞれのパートごとに演奏者が移動して演奏するなど、私が好んで聴くクラシック音楽とはまったく異なるものでした。
それはそれで面白かったのですが、ステージの後ろの席、つまり演奏者の後ろから客席が見渡せ、いかに多くの人が睡魔との闘いに負けているかがよくわかったのでした。ステージの一番前の席、おそらくその日、私の4~5倍のチケット代を払ったであろう人も、何人も首をがっくり前に倒して眠っていました。さすがに「もったいないなぁ」と思ったものです。でも、そんなことばかり考えていたせいか、その不思議な演奏会で、私はまったく眠らなかったのです!クラシック音楽で眠くなるというのは、つまりは音楽の世界に深く入り込んでいるからなのだという思いを強くした私なのでした。